公表されたのは、衝撃的な数字だった。文部科学省は10月4日、「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(いじめ関連部分抜粋版)」を公開した。
同調査によると、2022年度に小・中・高校、及び特別支援学校における、いじめの認知件数は68万1948件。前年度は61万5351件だったので10・8%の増加となり、過去最多を記録した。
いじめの被害者が心身に重大な傷を負う「重大事態」の件数は923件。こちらも30・7%の増加で過去最多となった。
集計期間は異なるが、22年に全国の警察が認知した刑法犯は60万1389件。20年ぶりに増加に転じたことがニュースになったが、いじめの認知件数のほうが約1万4000件も多いことになる。
刑法犯の認知件数よりもいじめの件数の方が多いという現状は、子どもを持つ親でなくとも「学校で一体何が起きているのか」と疑問に感じるだろう。
いじめの問題について取材を重ねてきた元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は現状をこう分析する。
「2011年に大津市、18年に名古屋市、21年に旭川市などで重大ないじめ問題が発生し、被害者が亡くなるという痛ましい事件が起こりました。それにより、いじめへの社会的な関心が高まり、過去最多などのニュースも大きく報じられるようになりました。おそらく、本年度も過去最多を更新する可能性が高いと見られています。しかしながら、私がいじめの取材や調査で教育現場を回っても、いじめ自体が増加しているという実感はないのです」
■「いじめ」という言葉が犯罪性を隠す
発生件数と認知件数は違う。学校では昔からいじめ問題が深刻化していたが、教育委員会が把握する、発表する件数とは開きがあった。
「その大きな理由に教育現場の隠蔽(いんぺい)体質がありました。自分の学校でいじめが発生したとなると、校長や教頭を筆頭に、担任の教師などは“ペナルティー”を科される可能性がある。そのため教育現場ではいじめが発生しても“臭いものにふた”をして隠してきたのです。ところがSNSやYouTubeの進歩などで明確な証拠が残されるケースや、被害生徒がSNSなどで発信したり第三者に相談したりすることが増え、隠蔽することが難しくなってきたのです」(同)
いじめの被害生徒や保護者の意識が変化したことも見逃せない。かつての親は、わが子がいじめ被害にあった可能性を知っても、「先生に知らせると印象が悪くなるかもしれない」「進学に影響が出るのでは」「兄弟がいるからどうしよう」「世間体が悪い」などと表沙汰にするのをためらう傾向があった。それに伴い、子ども自身も我慢を強いられることが珍しくなかった。
「そもそも『いじめ』という言葉に問題があります。いじめは傷害罪や暴行罪、恐喝罪といった犯罪行為が含まれることも珍しくないのですが、『いじめ』という言葉には犯罪性を隠すニュアンスがあります。だから私は『いじめは犯罪』と繰り返し訴えてきました。そして徐々にではありますが、教育現場も親子の意識も変わってきました。昔は、いじめられた被害者が学校を休んだり、転校に追い込まれるケースが大半でした。ところが北海道旭川市の『旭川市いじめ防止対策推進条例』は、市長が加害児童・生徒の出席停止などを学校や教育委員会に勧告できるというものです。当たり前のことですが、いじめの被害者は守り、加害者の責任を追及するという原理原則が改めて認識されてきたと言えます」(抜粋)
コメント一覧