今年5月24日午後3時半、フィリピンから成田空港に男女4人が降り立った。オーバーサイズの白色パーカーを目深に被り、ゆっくりと歩を進める女性は時折、腹部を気にする素振りを見せる。渡辺優樹(39)を頂点とする特殊詐欺組織“ルフィグループ”のメンバーだった熊井ひとみ(26)だ。
「この日、男女4人は金融庁職員や警察官などになりすまし、高齢女性宅に虚偽の電話をかけ、キャッシュカードを3~5枚盗んだ容疑で逮捕されました。彼らはフィリピン国内から詐欺の電話をかける“かけ子”として活動していたのです」(社会部記者)
熊井と共に逮捕されたのが、交際相手である藤田海里(24)。藤田は「オオクラ」と名乗り、3チームのうちの1つを束ねるグループリーダーを任されていた。逮捕後、藤田は取り調べに黙秘を貫いたが、9月26日に行われた初公判では一転。容疑を認め、詐欺グループの恐怖支配や、熊井との関係について饒舌に語った。
東京地裁706号法廷の証言台に立った弁護人から「配偶者はいますか」と聞かれた藤田は「内縁の妻で、熊井ひとみさんがいます」と証言。続いて、次のように明かした。
「フィリピンに滞在している間は同棲していたんですが、子供の妊娠が発覚した今年1月頃からは『ずっと一緒に暮らしていこう』と思って」
そして前を見据え、こう宣言したのだ。
「罪を償ってから、その後、入籍したいなと思っています」
実は、熊井は約1ヵ月前に出産している。被告人質問は次のように続く。
〈弁護人「お子さんには会いましたか」
藤田「まだ、会っていないです」
弁護人「いま、熊井さんがどうやってお子さんを育てているか、その状況は把握していますか」
藤田「接見禁止がついている状態なので、まだそういった情報はいただいていません」
弁護人「お子さんの写真は見ましたか?」
藤田「まだです」
弁護人「お子さんの名前は知っていますか?」
藤田「名前もまだわからないです」
弁護人「熊井さんとお子さんのこと、今後どうしていきたいという展望はありますか?」
藤田「できれば自分たちの手で育てていきたいなとは思っています」〉
被害総額60億円に上るとされる一連の“ルフィグループ”による事件。異国の地で“同志”として知り合い、愛を育んだ2人は今、何を思うのか。法廷で明かされたのは、彼らを結びつけた数奇な縁だった。(抜粋)
https://news.yahoo.co.jp/articles/0f217a80d98ec358fb5be63d6065e42c6e9e501d
公判で弁護人から「逃げることはできなかったのか」と聞かれると、藤田は繰り返し「捕まって何かされるということが怖くて出来ませんでした」と顔を歪ませるのだった。だが、地獄の日々を漂いながら藤田が心の拠り所にしていたのが、熊井と共に過ごす刻だった。
熊井の祖父は、高知県議を5期務めた地元の名士だった。会社員の両親のもと、3人きょうだいの末っ子として育てられた熊井は高校卒業後、多摩美術大に進学。全国の大学新入生を対象とした「ミスフレッシュキャンパス」に応募し、将来の夢として「人を笑顔にする仕事がしたいです」と語った。だが、熊井は次第に迷走を始める。
パパ活に精を出し、グッチやルイ・ヴィトンなどの高級ブランド品を買い漁った。3年時に退学すると、淫奔な日常に漂い、周囲との関係を断ち切った。19年、熊井はフィリピンに渡航し、詐欺グループの一味に成り果てたのだ。
そんな熊井と藤田が交際を始めたきっかけとなったのは、フィリピン入国管理局によるアジトの摘発だった。同年11月13日、同局はマカティ市内で“ルフィグループ”のメンバー36人を拘束。難を逃れた熊井と藤田は混乱の最中に交際をスタートさせ、息を潜めるように同棲生活を始める。渡辺ら幹部がマニラ市のビクタン収容所に収容されたのは、それから1年余が経過した21年3月頃のことだ。2人が組織を脱退したのは、その直後だった。(抜粋)
https://news.yahoo.co.jp/articles/ee1c8880917ddd475bffe600fc727ac4d050040a
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