東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出から1週間を超えたが、中国側の反発は収まるどころか、エスカレートしつつある。SNS上の“トンデモ投稿”も勢いを増しており、内容は非科学的というより、いまや荒唐無稽の領域に……。
が、一見、怒り狂っているかのように映る、中国人投稿者らの意外な「本音」を専門家は指摘する。
富士山よ、300年の眠りから覚めて爆発しろ!〉〈海洋放出した海が変色した〉〈日本のがん患者が増加〉〈日本が核攻撃を発動した〉……
現在、中国の代表的なSNS「微博(ウェイボー)」で飛び交っている投稿文のほんの一例である。中国のSNSでは連日のように福島第一原発の処理水放出に関する投稿がランキング上位を独占中。
しかし実態は「デマ情報」が大半を占める“無法地帯”と化している。
投稿には“フェイク写真”も多く、海洋放出のニュースと絡めて「前足が4本あるカエル」や「口が2つある魚」の写真などがアップ。また2年前の強風によって大量に打ち上げられたイワシの写真を、あたかも処理水放出による「大量死」と誤認識させる投稿もある。
さらに「浙江省当局が日本製キャンディーを押収した」というニュースが拡散しており、その理由は「海洋放出で日本製食品に対する市民の不安が高まっているため、検査チームが人体への影響を調べるため押収した」と説明されている。
問題のキャンディーは埼玉県で製造されたものというが、2011年の福島第一原発事故に伴い、中国政府は福島や宮城、埼玉県など10都県からの食品輸入停止措置を継続中。もともと埼玉県は“ブラックリスト”に載っていたため、格好の標的にされたと見られる。
日本に対する非難の動きはSNS上にとどまらず、先月だけで中国発の迷惑電話が東京電力に6000件以上、東京都には3万件以上あったことが判明。また北京の日本大使館にレンガの破片が投げ込まれ、山東省と江蘇省の日本人学校には石や卵が投げつけられる事例が発生し、中国に在住する日本人への警戒が呼び掛けられている。
「中国国内で反発が広がっている背景の一つに、処理水が『核廃水』だと喧伝されていることがあります。中国では、ウランやプルトニウムなどの核燃料に触れることなく原発から排出されたものを“核汚染水”とする一方で、事故を起こした原発内のデブリ(核燃料)に触れた処理水は『核廃水』と明確に区別。
中国政府や官製メディアは、今回は“より危険で人体に有害な核廃水だ”と一方的に主張して、国民の不安と恐怖を煽っています」(全国紙外信部記者)
この主張に根拠がないことは、すでに日本政府がデータを示して反論している。福島第一原発の処理水に含まれる放射性物質トリチウムは年間22兆ベクレルと想定されるが、広東省の陽江原発や福建省・寧徳原発などの同年間排出量はいずれも100兆ベクレル(21年)を超えている。
ちなみにトリチウムはALPS(多核種除去設備)で除去できないが、「100倍以上に薄めて海洋放出し、海水でさらに希釈。科学的に無害とされるレベルにまで達している」(同)というのが日本側の見解だ。
中国事情に詳しいジャーナリストの高口康太氏が指摘する。
「中国のSNSの現状は、日本から見ると“大炎上”しているように映りますが、ショート投稿でバズったのに味をシメた愉快犯らによるデマ投稿もかなりの数にのぼると見られます。実際、12年の尖閣諸島問題の時と比べると、“日本憎し”の感情がストレートに伝わってくる投稿は思いのほか多くないとの印象です。
“憂さ晴らしに祭りに参加する”といった感覚で盛り上がっている部分が少なくない一方で、現在の状況を中国政府が黙認している部分があるのは確か。この間、日本政府の主張に沿う“科学的に見ると処理水が危険とはいえない”との冷静な指摘を中国の科学インフルエンサーや元原子力部門の関係者らが投稿したケースもありますが、すぐに消されています」
中国外務省報道官は処理水の海洋放出を受け、「日本は全世界に核汚染のリスクを転嫁した」などと批判してきた手前、都合の悪い情報は見つけ次第、削除。しかし内容がどれだけデタラメであろうと“日本批判”の投稿は野放しにしているわけだ。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/09021115/?all=1#:~:text=%E5%87%A6%E7%90%86%E6%B0%B4
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