ロシアでは2021年、新たに5万9000人がHIVに感染。国連は昨年末に南アフリカ、モザンビーク、ナイジェリア、インドに次ぐ深刻な状況だと指摘した。米フォーブス誌(ロシア語版)などが、公式統計を基に試算した感染者は150万人にのぼる。シベリアやウラル地方では、妊婦の2%以上がHIVに感染している都市もある。
しかし市民の危機感はいまひとつだ。ロシアやベラルーシでは「エイズは同性愛者の病気」という偏見が根強く、性病への警戒も薄い。モスクワのIT企業で働く20代男性は「私の周囲では誰も感染するとは思っていない」と話す。同市の20代の男性銀行員は「学校や大学ではエイズについて学ばなかったし、話題になりにくい」と打ち明けた。
◆「欧米敵視」が議論や知識の普及を阻んだ
ロシアでは1991年のソ連崩壊後、社会が混乱に陥り、売春や薬物乱用の際の注射針で感染者が急増。ロシア政府はエネルギー輸出で財政が安定した2000年以降、国際社会と連携して「ストップHIV」キャンペーンを実施し、メドベージェフ元大統領の妻が推進団体のトップを務めた。
だが、ロシアのエイズ啓発や患者支援に携わる団体の多くは、欧米の基金や国際機関から支援を受けており、ウクライナを巡って欧米との対立が激化すると、政府系団体以外は弾圧を受けるようになった。16年以降、複数のエイズ患者支援団体が、当局によって「外国の代理人」と認定された。「欧米のスパイ」とほぼ同義語であり、活動を封じられた。プーチン政権の欧米敵視の姿勢がエイズに関する社会の議論や知識の普及を阻んでいる。
社会学者のグトコフ氏は「プーチン政権は欧米敵視の思考を国民に植え付けており、この呪縛が解かれるには少なくとも15年はかかるだろう」と悲観する。
◆ベラルーシでは独自の理論まで
ベラルーシもエイズ禍が続いている。当局の発表によると、
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